田中啓文『
シャーロック・ホームズたちの冒険』(東京創元社,2013/05)
収録作品
- 「スマトラの大ネズミ」事件
- 忠臣蔵の密室
- 名探偵ヒトラー
- 八雲が来た理由
- mとd
あとがき
かのシャーロック・ホームズをはじめとする「著名人の名推理に酔いしれる、連作短編集[袖]」。意外にも(失礼)原典に忠実で手が込んでいて凝りまくっているのにそんなオチをつけるところがまさに田中啓文だということは重々承知ノ助。
「「スマトラの大ネズミ」事件」ライヘンバッハの滝から帰還したシャーロック・ホームズが、連続首狩り事件の謎を追う中で明らかになる「帰還」の秘密。「忠臣蔵の密室」討入り当日、密室状態の炭小屋のなかにあった死体という設定にしびれる。その謎を大石主税からの手紙で解明するのが母のりく。そこで話は終わらずさらにその奥の奥まで造りこんでくるわけだが、この初出が〈
J・D・カー生誕百周年記念アンソロジー〉というのだからなんというか畏れいる。「名探偵ヒトラー」シャーロッキアンのヒトラーとそのワトスン役を任ずるボルマンが大本営「狼の巣」で起きた密室事件の謎を解く。血腥く、伝奇的展開ももれなく付いてきます。「八雲が来た理由」ラフカディオ・ハーンが解決した不可思議な謎が結実したのがあの『
怪談』だったのです。「mとd」アルセーヌ・ルパンとその作者モーリス・ルブランとその訳者南洋一郎、さらにはルパンとホームズの関係までも大統一理論的に説明しようかという風呂敷の広さかな。